- 2020年06月12日
- 脳梗塞の介護
脳梗塞の後遺症はトイレ動作のどのような場面に影響がでるのか?
トイレ動作は1日4~7回行うと報告されておりますが[1]、脳卒中を発症されることで、膀胱のコントロールが効かなくなり、回数が増える可能性があることも報告されています[2]。
トイレ動作に介助が必要な場合は、1日の介助頻度も多くなり、介助者の負担が増加します。事前にどんな動作が必要かを知ることで、自宅での生活を想定でき、介護負担への不安を軽減できると思います。
今回は、少しでも不安が拭えるよう、動作の詳細についてお伝えします。
これから説明する動作は、車椅子が主な移動手段の方を対象とし、説明します。
脳卒中者のトイレ動作の流れ
トイレ入り口から便座までの移動
便座の近くまで車椅子を近づけるスペースがある場合は、近くまで近づけます。
便座の近くまで車椅子を近づけるスペースがない場合、かつ便座まで少し距離がある場合は、数歩歩いて便座まで移動しなければいけない場合もあります。
どのくらいの広さがあれば、車椅子でトイレに入れるか確認してみましょう。
便座に向けて方向転換
便座の近くまで移動した後、便座に座るためには、立った後に体(お尻)の向きをかえる、つまり方向転換が必要となります。
方向転換は麻痺していない側(以下,非麻痺側)の足を軸にして行いますが、非麻痺側の足を動かす際には、麻痺している側(以下,麻痺側)の足に体重を乗せなければなりません。その際にしっかり麻痺側の足で体重を支えることが必要となります。
※写真は左片麻痺の方を想定しています。
ズボン・パンツの上げ下ろし
麻痺側の手が動かない場合、ズボン・パンツの上げ下ろしには、非麻痺側の手で全て行わなければいけません。その際に、麻痺側側のズボン・パンツまで手が届かず、しっかり上まであげることが難しくなる場合があります。
また、ズボン・パンツをあげている間、手すり等を持たないで立っていなければならないため、転ばないようにバランスを保つことが必要となってきます。何も持たないで立っていることが難しい場合は、壁にもたれかかりながら行うことがあります。
トイレットペーパーをとる
普段何気なく行っている動作だと思いますが、トイレットペーパーホルダーの位置も、脳卒中患者さんにとっては重要です。トイレットペーパーホルダーが非麻痺側側にある場合は、大きな問題はありませんが、麻痺側にある場合には、身体を少し捻じって取る必要があります。座るバランスが悪い方は、身体を捻じることでバランスを崩してしまい、便座から転落する恐れがあります。
※こちらの写真のみ、右片麻痺の方を想定しています。
お尻を拭く
お尻を後方から拭く場合は、非麻痺側のお尻を浮かせるかと思います。非麻痺側のお尻を浮かせると、麻痺側のお尻に体重が乗ります。
麻痺側で体重を支えることが難しい場合には、写真のようにバランスを崩し、便座から転落する恐れがあります。
座るバランスが悪い方は、前方から拭く方法をおすすめします。
便座からの立ち上がり
手すりが設置されている場合は、手すりを持ち、立ち上がります。麻痺側の足にもしっかり力が入り、立ち上がることができれば1番良いですが、麻痺側の力が入りづらい方は、その分非麻痺側の足の力が必要となってきます。
水を流す
立ち上がり、ズボンをあげた後に水を流しますが、便座の後方に水栓レバーがある場合は、後方への方向転換をしなければなりません。
また、水栓レバーは手を伸ばさないと届かない場合が多く、転倒リスクを伴います。
介助が必要となりうる動作
便座までの移動~便座に向けた方向転換に必要な介助
数歩歩かなければいけない場合は、転倒しないよう支える介助が必要となります。
また、方向転換を行う際、上記でも説明した通り、麻痺側の足に体重を乗せる必要があります。
麻痺側の足で支える力が不十分の場合は、膝折れが生じ、転倒するリスクがありますので、支える介助が必要となる場合があります。
ズボン・パンツの上げ下ろしに必要な介助
麻痺側のズボン・パンツを十分に上げることができない場合、そちら側を上げる介助が必要となります。
また、壁にもたれかかりながらでもズボン・パンツの上げ下ろしが困難な場合は、上げ下ろしの介助が必要となります。
便座からの立ち上がりに必要な介助
トイレの便座の標準的な高さは床面から40cmといわれております。
座面が低く立ち上がりにくい場合は、立ち上がる介助が必要となります。
※お尻を拭く動作・水を流す動作もご自身で困難な場合には、ご家族様の介助が必要となります。
確認すべき環境設定
ドアについて
トイレのドアの形状について確認してみましょう。開戸の場合、戸を後ろに下がって開けなければいけないことがあり、後方へ転倒するリスクがございます。動作を確認し、開き戸では転倒の危険を伴う場合は、引き戸や折れ戸への改修を検討しても良いでしょう。
トイレまでの距離について
便座の近くまで車椅子を近づけることができれば問題ありませんが、スペース的に近づけることが困難な場合には、数歩歩かなければいけない場合があります。その際には、杖で歩くことができれば杖を使用し、杖での歩行が困難な場合は、手すりを設置する必要があります。
手すりの位置について
方向転換や立ち上がり時に使用するために、壁に手すりの設置が可能な場合は、手すりを設置します。場所は、便座に座った時の非麻痺側側につけます。構造上、壁に手すりの設置が困難な場合は、床から天井間の突っ張り型の手すりや、据え置き型の手すりがございます。福祉用具会社に相談していただければ解決しますので、困った際には相談してみてください。
便座の高さについて
上記でもお伝えした通り、便座の標準的な高さは床面から40cmといわれております。座面が低く立ち上がりが困難な場合は、「補高便座」がございます。
補高便座は、介護保険が認定されている場合、介護保険を利用して購入することが可能です。座面を高くすることで、お一人で立ち上がることが可能となる場合がございます。
まとめ
今回は、主な移動手段が車椅子の方を対象として説明させていただきました。ご家族様が現在入院中の場合は、担当セラピストに介助方法や改修案を直接聞いていただくことをおすすめ致します。
在宅で生活されている方は、介助方法や改修1つで介助が楽になる場合もございますので、ご連絡いただければと思います。
執筆者:ジョイリハNEXT 理学療法士 河野 沙季
□参考文献
1.日本新薬:泌尿器関連 中高年のおしっこの悩み.
https://www.nippon-shinyaku.co.jp/healthy/dysuria.html
(2020年4月11日引用)
2.日本泌尿器科学会:尿が近い、尿の回数が多い~頻尿~.
https://www.urol.or.jp/public/symptom/02.html
(2020年4月11日引用)