- 2020年05月23日
- 脳梗塞の後遺症
軽度の脳梗塞とは何か?【リハビリの専門家が解説】
脳梗塞を発症した後、医師から「軽い脳梗塞ですね」と言われた事がある方もいらっしゃるかもしれません。
脳梗塞に軽い、重いってあるの?と思いますよね。
今回は、「軽い脳梗塞」についてどのような脳梗塞を指しているのか、また発症した後の症状が、どのような改善をたどるかについてご説明します。
Contents
軽い脳梗塞ってどういうもの?
脳梗塞とは
脳梗塞とは、脳の中の血管が細くなったり、血の塊が脳の血管に詰まって生じる疾患です。
血管が詰まると、そこから先に血流が流れなくなってしまい、脳の細胞に栄養が行きわたらなくなり、細胞は壊死してしまいます。
脳梗塞の種類は、大きく分けて3つに分類されます。
不整脈の1つである心房細動が原因で、心臓の中にできた血の塊が脳の血管で詰まる『心原性脳塞栓症』、動脈硬化が原因で脳へ向かう太い血管の血流の流れが悪くなって生じる『アテローム血栓性脳梗塞』、脳内の細い血管が詰まる『ラクナ梗塞』の3つです。
医師がよく言う「軽い脳梗塞」とは、ラクナ梗塞を指していることが多いです。
軽い脳梗塞の”ラクナ梗塞”とは
なぜラクナ梗塞は、軽い脳梗塞と言われるのか。
それは、とても細い血管の梗塞のため、後遺症の症状の程度としても、他の心原性脳塞栓症やアテローム血栓性脳梗塞と比べると症状が軽いことが多いためです。
ラクナ梗塞を発症していたとしても、部位によっては症状も出ないこともあるので、人間ドックで初めて見つかる場合もあります。
しかし、小さい梗塞だからといって軽視してはいけません。
ラクナ梗塞の原因は、高血圧や糖尿病等が挙げられます。これらを放置すると、再び脳梗塞を発症するリスクがあります。
必ず医療機関で治療を行ってくださいね。
症状からみる経過について
脳梗塞を発症すると、なにかしらの後遺症が出現する場合があります。
発症した時の症状から、どの程度改善するかに関しての報告をお伝えします。
腕の麻痺の経過
入院時に、手・腕に麻痺が全くない方は、80%の方が退院後も日常の生活で問題なく使用できると言われています。[1]
手・腕を挙げることはできるが、麻痺によって少し動きがぎこちない方は、77%の方が退院後も日常の生活で問題なく使用できると言われています。[1]
入院時に、麻痺によって手・腕を重力に逆らって動かすことができない方は、11%の方が退院後も日常の生活で問題なく使用でき、24%の方が日常の生活の中で一部(文字を書く際に、麻痺している手で紙をおさえる等)使用できるようになると言われています。[1]
まとめると、
▼入院時に、手・腕の動かしづらさがない方、また少し動かしづらい方も、退院後は多くの方が日常の生活で問題なく使用できます。
▼入院時に、手・腕を上にあげることができない方は、退院後の日常の生活で、問題なく使用できる方も少なからずいますが、多くの方が何らかの支障を生じています。
歩行動作の経過
入院時に歩くことは困難であっても、お一人でベッドから起き上がることやベッドの上で座ることができる方は、最終的に93%の方がお一人で歩けるようになり、そのうち84%の方は、屋外もお一人で歩けるようになったと報告されています。[2]
お一人で歩けるようになった方の4%の方が短下肢装具を使用し、40%の方が杖を使用していました。
入院時に歩くことや起き上がり、座ることも全て困難であっても、最終的に半数の方がお一人で歩くことができるようになったが、一方で11%の方は起き上がりや座ることはお一人でできるようになったが歩くことは困難、39%の方は全ての動作に介助が必要なままであったことが報告されています。[2]
また、発症した際の年齢も大きく関わっており、59歳以下の若い方であれば、最終的にお一人で歩けるようになる可能性が高いと言われています。
他にも、入院時に「食事」「尿意」「寝返り」の3項目中、2項目または3項目自立していれば、最終的に多くの方がお一人で歩くことができるようになると報告されています。[2]また、その70%の方が屋外での歩行も自立しています。
一方で、3項目のうち1項目も自立していない場合、最終的にお一人で歩くことができる方は26%であり、60%の方は動作全般全介助に留まると報告されています。[2]
まとめると、
▼入院時に起き上がることやベッドの上で座ることができる方は、最終的に多くの方がお一人で歩けるようになります。
▼発症した際の年齢も大きく関わっており、59歳以下の若い方であれば、最終的にお一人で歩けるようになる可能性が高いです。
▼入院時に「食事」「尿意」「寝返り」の3項目中、2項目または3項目自立していれば、最終的に多くの方がお一人で歩けるようになります。
感覚障害の経過
感覚障害とは、手足や顔・身体の感覚が鈍くなったり、逆に鋭く感じることがあります。
またそれを、痛みや痺れとして感じる方もいらっしゃいます。
脳卒中を発症してから、感覚障害の回復は3ヶ月以内に最もみられ、6ヶ月またはその後に継続して回復がみられると報告されています。[3]
しかし、回復の程度には個人差があることや、完全な回復には至らないことも報告されています。[3]
後遺症は残るの?
脳には、手足の動きを司っている場所、感覚を司っている場所、言葉を司っている場所等、それぞれ場所によって役割が異なってきます。
どの血管が詰まってしまったかによって、出現する症状はさまざまです。
また、障害された部位、程度によって後遺症は残ってしまう可能性があります。
しかし、リハビリを継続することで改善する報告も多くあります。
再び脳梗塞にならないために予防は大事
脳梗塞の原因は、高血圧や糖尿病、高脂血症を原因とする場合が多いです。
一度、脳梗塞を発症された方は、これらの根本治療をしっかりと行わなければ、再び脳梗塞を発症する可能性があります。
これらの治療には、薬での治療はもちろんですが、合わせて普段の生活で予防することも重要になってきます。
また、今後「少し手足が動かしにくくなってきた」「少し話しづらくなってきた」等、新たに症状が出た場合は、脳梗塞を疑う必要があります。
脳梗塞かも、と思ったらすぐ医療機関を受診してください。
脳梗塞を発症した場合、その医療機関の医師が判断にもよりますが、血の塊を溶かす治療を受けられる場合があります。
そのタイムリミットは、発症してから4.5時間以内といわれています。
なにか身体に異変を感じたら、必ずすぐに医療機関を受診してくださいね。
まとめ
「軽い脳梗塞」とよく言われる『ラクナ梗塞』についてご説明しました。
いくら症状が軽いと言われても、発症されたご本人様からすると、とても重大なことです。
後遺症が残る場合もありますが、リハビリによって改善するケースも多く報告されております。
気になった点などございましたら、お気軽にご連絡ください!
□引用文献
[1]Nakayama H, Jorgensen Hs, et al.: Recovery of upper extremity function in stroke patients: the Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil 75: 394-398, 1994
[2]二木立, 脳卒中リハビリテーション患者の早期自立予測.リハ医学19, 201-223, 1982
[3]Winward CE, Halligan PW, et al.: Somatosensory recovery: A longitudinal study of the first 6 months after unilateral stroke. Disability and Rehabilitation 29, 293-299, 2007
□参考文献
[4]京都大学医学部付属病院 脳神経外科:脳梗塞.
(2020年5月12日引用)
[5]聖マリアンナ医科大学病院:業務の案内.
https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/kanja/sinryou2/hnousottyu/
(2020年5月12日引用)