- 2020年05月26日
- 脳梗塞のリハビリ
脳梗塞の後遺症で手が動きにくい方へ|科学的根拠に基づくリハビリ方法の紹介
こんにちは。理学療法士の小向です。
脳梗塞の後遺症で腕や手が麻痺をしてしまった時、
「どういうリハビリをすれば良いのかわからない…」
「リハビリをすることでどの程度よくなるのかイメージできない…」など、
不安に思う方も多いのではないでしょうか。
今回は、脳卒中ガイドライン[1]にも掲載されているリハビリの方法の1つ、CI療法についてお伝えします。
手の麻痺はなぜ回復しにくいのか?
脳卒中後にリハビリをしていると、歩行は上手になっていくのに、手が中々上手に使えるようにならない、治るのだろうかなど不安に思う方も多いのではないでしょうか。
手の回復が遅い理由、それは「学習性の不使用」が関わっているかもしれません。
▼学習性の不使用
学習性の不使用とは、麻痺をしている手を使わない状態が続いた場合に、麻痺をした手を使わないことを学習してしまうことをいいます。
足と違って手は、麻痺をしていない方の手で代わりに生活動作が行えるようになってしまうため、麻痺をしている手を使う機会が極端に減ってしまいます。そうすると「学習性の不使用」となり、より手の回復を妨げてしまうという悪循環に陥ってしまいます。
よって、手のリハビリでは、手を積極的に使うことが必要となります。
今回は、手を積極的に使う方法である、CI療法についてお伝えします。
CI療法とは
CI療法は、Constraint-Induced Movement Therapyの略で、脳卒中後に麻痺している手を積極的に使用することで、麻痺している手の機能を向上させようとするトレーニング方法です。
生活の中で積極的に麻痺をしている手を使い、再び麻痺した手の使い方を学習していきます。
CI療法は、日本脳卒中学会が発刊する脳卒中ガイドライン2015でも推奨されています[1]。
▼CI療法の効果
- 日常生活での手の使用頻度の向上
- 手の動きの質の向上
以上が報告されています[2]。
▼研究の紹介
例として、発症から平均約6ヶ月〜8ヶ月経過している人を対象にした研究を紹介します[3]。
この研究では、CI療法を1日2時間、週5回、3週間実施しました。手の使用頻度と手の動きの質については、表1の項目を用い、日常的においてどれくらい麻痺している手を使っているか、どれくらい上手く使えたかを評価しました。
紹介した先行研究の結果では、図1のように、CI療法群の方が、通常のリハビリを行った群よりも、日常生活での手の使用頻度や手の動きの質が向上しました[3]。
これは、日常生活で麻痺した手を全く使用していない状態から、麻痺をしていない手での介助が必要ではありますが、麻痺した手を多少使用する状態になったことを指します。
例えば、グラスを持ち上げるときに麻痺をしている手を添えられるようになるなどが挙げられます。手を使う頻度を増やすことは、リハビリの効果を向上させる上でも非常に重要な指標となります。
表1. Motor Activity Log(MAL)[4]
図1 手の使用頻度と手の動きの質[3]
他方、CI療法には適応があり、練習量の確保も重要となります。
では、どんな人が対象になるのか、どれくらい練習が必要なのかみていきましょう。
どんな人が対象なの?
CI療法では、脳卒中後の患者さんのうち、一般的に手首を少し動かせる人が対象となります。
具体的には手首や指が手の甲側に少しでも動かせる人です。専門用語では、手や指が伸展するといいます。
必ずしも、この対象に当てはまるかは、実際に手の評価が必要になりますので、詳しくは、理学療法士や作業療法士といったリハビリ職に相談してみると良いでしょう。
どれくらい練習すれば良いの?
手を積極的に使うためには、リハビリテーションの量を確保することが大切になります。具体的にどれくらいの時間、期間を行えば良いか、過去の研究をまとめた論文をもとに紹介します[2]。
▼ 必要な練習時間
CI療法の手の使用に関する最初の報告では、1日あたり6〜8時間の長時間にわたる集中的なトレーニングが提案されていました[5-7]。近年では、CI療法のさまざまな形が開発され、トレーニングの時間を減らす方法も検討されていますが、それでも、過去の研究においては、週10時間〜45時間トレーニングを行っている論文が多く含まれています[2]。
上記の時間についてリハビリを行う場合、週数回程度の外来リハビリで十分な時間を確保できない可能性があります。
よって、病院や施設でのリハビリ以外に、自宅でも麻痺をした手を使う工夫が必要になります。
具体的にどんな方法で行うの?
CI療法では、日常生活で使う動作の中から、利用者さんの希望や必要性に応じて練習を行っていきます。
日常生活の動作をベースに行っていきますが、いきなり箸を使ってご飯を食べるなど、難しい動作を行うわけではなく、患者さんの手の機能に合わせて、「練習の難易度」を調整しながら段階をつけて行っていきます。このときに、目標に対して、どのような段階を踏んでいるか、療法士と確認しながら行うことで、より練習の質が上がるでしょう。
また、前述した通り、リハビリ時間以外にも麻痺をした手を使う頻度を上げることが重要になります。
ただ闇雲に手を使えば良いというわけではなく、難易度に沿った課題かつ自宅環境で取り入れやすい運動の設定が必要ですので、療法士とよく相談しながら進めましょう。また自宅でできたこと、難しかったことも療法士と相談し、適切な練習になるようにしていきましょう。
まとめ
今回はCI療法について紹介しました。
自分は適応になるのか、具体的にどんな練習が必要かについては、理学療法士や作業療法士といったリハビリ職に相談してみましょう。
ジョイリハNEXTでは、リハビリの体験プログラムを設けています。
手のリハビリについて、ご相談がある方は、是非一度ご相談いただければと思います。
文責:ジョイリハNEXT 理学療法士 小向佳奈子
□引用
1.日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会、脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2019対応]、協和出版、2019
2. Corbetta D, et al: Constraint-induced movement therapy for upper extremities in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Oct 8;(10):CD004433.
3.Wu CY, et al: A randomized controlled trial of modified constraint-induced movement therapy for elderly stroke survivors: changes in motor impairment, daily functioning, and quality of life. Arch Phys Med Rehabil. 2007 Mar;88(3):273-8.
4.高橋香代子、他:新しい上肢運動機能評価法・日本語版Motor Activity Logの信頼性と妥当性の検証.作業療法28:628-636, 2009
5. Miltner WH, Effects of constraint-induced movement therapy on patients with chronic motor deficits after stroke: a replication. Stroke. 1999;30(3):586-92
6. Taub E et al: An operant approach to rehabilitation medicine: overcoming learned nonuse by shaping. J Exp Anal Behav. 1994;61(2):281-93.
7. Taub E, et al: Constraint-Induced Movement Therapy: a new family of techniques with broad application to physical rehabilitation–a clinical review. J Rehabil Res Dev. 1999;36(3):237-51.